向精神薬の不可解さを探るコラム 第1回 薬の一包化の問題点

「あなたは何を飲んでいるのですか?」薬の一包化で見えなくなること

向精神薬を服薬している患者さんは多剤処方になると薬を一包化されている人が多い。一包化は一見すると便利だが、「まとめのみ」によって1剤1剤を服薬する意識が薄れ、漫然と飲むことが習慣化されてしまうリスクがある。向精神薬の服薬を主体的に考え、調整していくためにまず一包化について再考してみてはどうだろう?

「あっ薬飲みますね」

精神医療ユーザーの当事者の方とのランチ。食後にこう言って、ポーチなどから薬のビニール小袋を取り出して封を切り、少し上を向いて複数の錠剤を、小袋から口に入れ、水でごくっと飲むシーンを私はしばしば見てきた。

双極性障害と診断されている私のきょうだいと86歳の母のもこの小袋に入ったお薬を服薬している姿を目にする。

写真のこの袋の中の薬は色のついたものとか、カプセルなどもあり、白くて丸くてよく似ているがよく見よると真ん中に線があったり、なかったり、小さな文字が刻印されているのもあるがとにかく色々な薬がひとまとまりになっている。

一体どんな種類の薬がいくつ入っているのか?驚くことに案外服薬している本人は詳しいことを知らない場合も少なくない。

とはいえ、この小袋について、以前の私も「持ち運びにも便利なものなのだろう」程度に思っていて深く考えたことはなかった。

しかしここ5年間ほど向精神薬の多剤処方と「減薬」というテーマについて薬の効果や副作用を1つずつ調べるようになって、深く考え始めると、朝・昼・晩用に丁寧に小分けしてあるこの透明な袋のことがとても気になりはじめた。

ちなみにイタリアでは、薬は患者さんに箱ごと渡されている

2年前に私はイタリアの精神保健を取材したのだがイタリアでは薬は全て製薬会社から出荷された小箱ごと添付文書もついた状態で、患者さんの手に渡っている様子だった。

これはイタリア人の当事者の友人が持っている薬の写真だが、ご覧のように箱ごと渡されるのため、単剤でない場合には管理も毎回の服薬も少し大変そうだ。そして箱の中には薬の添付文書も入っている。

統合失調症と診断されている当事者の薬。一箱は1週間分で箱ごとに手渡されるという。
単価の精神科病院は廃止されたイタリアだが、急性期の救急医療が必要な人のための治療病院には薬剤庫があり、医師の診断のあと薬は看護師から患者に箱ごと手渡されるという話だった。

1週間分の各薬を箱ごと渡されるイタリアの方法と日本の状況を比較すると、服薬時間ごとに薬をまとめて一包化し、服薬時間まで印字してくれる日本のシステムの便利さ、きめ細やかさ、衛生観念、そしてある種の過剰包装好きの文化というのが見て取れる。

一包化・お薬手帳・薬剤情報提供書 という3種の神器が隔てるもの

また薬局では、各個人の処方履歴を書いたシールが貼れるお薬手帳にプラスして、薬剤情報提供文書という紙も配布される。

そこには薬の効能、用法、用量、副作用などの注意事項も写真付きで書かれているが、それは製薬会社が薬品の箱に入れる添付文書の内容とは異なり、患者向けにアレンジされた軽めの情報と言える。

つまり、調剤薬局が提供する、一包化、お薬手帳、薬剤情報提供書の3つにより、処方薬はわかりやすく管理され、患者向けに情報提供されていることになる。

その意味で日本の調剤サービスというのはよく整ったものだとは思うが、この3つのサービスが、処方する側の医師や薬剤師と服薬する当事者である患者の意識や言葉を隔てているという側面もある。

患者に対しては患者が安心して服薬を継続することが意図された情報の一部がわかりやすい言葉で紹介されている。

しかし添付文書という物のあの細かな字で書かれた記載内容を一度でも読めば、そこには薬に関するあらゆるリスクの掲載が義務付けられていることがわかるだろう

その多くは自分には関係のない確率の低いリスクかもしれない。だがそれは服薬してみなければ判断がつかないものでもある。

特に向精神薬を服薬することは脳に強く作用する薬だけに「賭け」のようなものだと取材を続けていくうちに私は考えるようになった。

このシビアな情報を受け入れた上で、精神科における治療について考える時、目の前の不調や不安、苦しさをどう薬でコントロールするのか、どのようなリスクと引き換えて服薬するのか、またそれはどのくらいの計画で行う治療なのかなどをかなり慎重に考える必要がありそうだ。

一包化加算という保険が適用される有料サービス

調剤薬局では、一包化加算という診療報酬上のルールがあり、細かな算定方はともかく、ざっと書くと、「2剤以上の内服薬 又は1剤で3種類以上の内服薬を服用時点ごとに一包化を行った場合には一包化加算が算定できること」になっている。

一包化加算の金額は以下になる

42日分以下の場合 7日分ごとに32点(320円)
43日分以上の場合 一律220点(2200円)
実際には保険適用されますので、この1割〜3割負担になります。
例)28日分の一包化 320円×4週間×1割負担  約130円
  56日分の一包化 2200円×1割負担  約220円

そしてこの一包化の保健適用を受けるためには医師の指示が必要で、処方せんに「一包化指示」の記載が必要となる。

薬の一包化というきめ細かなシステムは、国民健康保険でカバーされるので少額の出費によって行われ、私たちの暮らしに違和感なく溶け込んでいる。

処方する医師と対話できる情報をもつために「まとめ飲み」を見直す!

一包化のサービスにはメリットがある。精神の急性状態で、判断力が低下しているがどうしても一定期間、確実な服薬をしないと症状が安定せず危険な状態の人、あるいは認知機能が低下しているお年寄りやお年寄りをケアをする人などにとっては、薬をわかりやすくまとめ、確実な服薬を促す利点があると思う。

だが同時に一包化には、薬を服薬することに対する主体性や注意力を低下させ「まとめ飲み」を漫然と続けてしまうリスクもある。

もちろん、一包化せず自分でパッケージから各薬を出して服薬しても、多剤併用処方であれば、各薬の効果や副作用を個別に判断することは容易ではない。

しかし多くの減断薬を希望する患者さんに取材してみて感じるのは、向精神薬は、どの薬であっても脳に作用する強力な薬であり、依存性も指摘されている。

漫然と多剤を服薬することによる脳や身体へのダメージの大きさは計り知れない。

にも関わらず患者さんは長期にわたって、自分の服薬してきた薬について知識を持たないまま多剤処方を漫然と服薬している人が多い。本格的に調子が悪くなってからやっと薬を調べ始めることになる。それは本当に困難な状態だ。

多くの場合、処方している医師も薬剤師も、多くの向精神薬を服薬した経験はない人たちだ。多くの患者さんの話を聞いて感じるのは、薬の飲み心地や効果や副作用は一人ひとりかなり違うということだ。

しかしとても残念なことだが、多くの精神科医は漫然とした多剤処方を患者さんに押し付け、患者さんにはそれを判断する力がないと考えている。

患者さん自身が主体的な医療を受けるためには、自分の体調や薬の飲み心地について医師と対等に対話できる環境を作る必要がある。

そのためにはどんな薬を服薬し、どのような状態なのかを把握し、医師に伝える必要がある。大変ではあるが薬について知るための勉強が必要だ。

安全に薬を調整し、減薬し、断薬も視野に入れた最低限の処方で回復を掴むために、今一度一包化された薬を小袋から取り出し、自分は何を口に入れるのか、何を脳に届けるのかを考えてみてはどうだろう。

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