NHKのドキュメンタリー番組『ビックファーマ製薬ビジネスの裏側』(フランス・2020年)の要約と感想


NHKのこの番組をビデオにとって数回みてから文字を起こし、それから要約しました。写真はビデオからスマホで撮影したものです。

11月にNHKで、ビッグファーマに関する番組の放映があった。フランスで製作されたこのドキュメンタリー番組を見てその要点と思うことと今私が感じていることを書いてみる。

この番組は主に6つの薬についてその製造、認可、販売など実際に起きた実例を元に、今世界で製薬企業=ビッグファーマというものがどんな意味合いを持った存在として位置付けされているかを紹介してくれる貴重なドキュメンタリーだ。

まず番組で紹介された実例から要点を簡単に解釈して説明していく。(私が少し情報を調べ追加した部分もあり)

1 価格を釣り上げる
【ドラプリモ(チューリング製薬・アメリカ)HIV治療薬】

2015年 チューリング製薬のCEOが WHO世界医療機関が必須医薬品に指定しているドラプリモという薬の価格を50倍も引き上げた。(1錠1600円から9万円へ)。結果的にはこの薬の価格は、今はその50倍の2分の1程度に下がっているそうだが高騰には変わりはない。

2 不都合な副作用データを隠して販売し続ける
【デパケン(サノフィー・フランス)てんかん治療薬】

日本でも飲んでいる人が多いデパケンというてんかんの治療薬は妊婦が服薬すると胎児に奇型などの障害が起きる可能性がある。そのことを製薬会社は1970年代(50年前)から知っていたと考えられるが、以前からデータを持っていたことを認めていない。このためフランスの被害者団体が国とサノフィを相手に訴訟中。現在は危険性そのものは認められ、ヨーロッパでは、デパケンの添付文書にカラーで妊婦には使えないことを示すイラスト付き注意書きが入った。

3 薬の名称を変更することで高額の別の薬として販売する
【アバスチン(ノバルティス社・スイス】大腸ガンの治療薬 加齢黄斑変性治療薬)

大腸ガンの薬アバスチンが、加齢黄斑変性という進行性の目の疾患に投与すると効果があることがわかった。アバスティンは癌の治療に広く使われる治療薬として低価格で流通している薬。眼球への投与のためにはアバスチンを注射器に充填すれば使用できる状態だったが、製薬企業は他の部位への使用を嫌がり、薬の名前を変更し、加齢黄斑変性の治療薬ルセンティスとして20倍の価格で販売することになった。フランスでは実際にはアバスチンも使用できるが保健の手続きが面倒なため、高価格のルセンティスが使用されている。

4 命に関わる薬の価格を法外なものに設定する
【ソバルディ錠(ギリヤド サイエンス社 アメリカ)ジェノタイプ2型C型肝炎の治療薬】

治療が難しいとされていたC型肝炎の薬ソバルディ錠。ギリヤドサイエンス社が開発して発売した。1錠の価格は1000ドル=約10万円。3ヶ月でC型肝炎が完治するそうだが価格は3ヶ月分で8400000円とされている。

5  命に関わる薬の価格を法外な額に設定する
【キムリア (ノバルティス社 スイス)白血病

ペンシルバニア大学の研究チームが主体となり共同開発社として特許を取得したがん細胞を攻撃する有効な薬。297666ユーロ=3349万3407円

(薬代だけなのかは番組を見ていて不明です)

6 不当なやり方で国の特別な承認申請を取り利益を独占しようとする
【レムデシビル(ギリヤドサイエンス社・アメリカ)エボラ出血熱の薬・新型コロナウイルスに効果があるかもしれないとされている】

コロナウイルスに効果があるかもしれないとされているレムデシビルを、アメリカで感染者が4万人の時点のパンデミック直前に、希少疾患の特別な薬=としてFDAの承認を取り、7年間の独占契約を与えようとした。結果的にサンダース上院議員によって承認は取り消された。

資本主義社会の中で薬は弱肉強食の道具になっている

番組を見た方も多いと思う。私のライターとしての勉強不足も大いにあるとは思うが、これまで知らなかったことが多く、こういったニュースは一般的な日本のマスコミでは全く報道されていないことが印象的だった。

そしてこの5つの実例を解説しながら番組は、製薬企業というものが、いわゆる国家に匹敵するような大きな権力を持ち世界を席巻しているかを、繰り返し様々な関係者の証言から紹介していた。

例えば番組冒頭のドラプリモという薬の価格を引き上げたマーティン・シュクレリ。

彼は医療分野に投資するヘッジファンドを経営している「アメリカで最も嫌われる男」とされているそうだがインタビューの中で「誰も言わないけれど資本主義なんだから出資者への還元を増やすのが私の義務で、倫理的には問題でもアメリカの法律には抵触しません」と発言している。

確かに薄ら笑いを浮かべながら 資本主義はお金がすべてと発言するマーティン・シュクレリ 彼があまりにも若い普通の男の子にみえることも驚き

結局「回復は金でしか買えない。生きたかったら、治りたかったら金を払え」ということを躊躇なく言える人間が製薬企業の実権を握っているということだ。

製薬業界の財力と権力は絶大でアメリカ議会や FDA食品医療局へのロビー活動は強力で世界の医療政策に大きな影響及ぼしている。

世界の薬品市場を牛耳るのは大手ビッグファーマ

世界の上位を占める企業は希少疾患に対する効果的な薬の特許を複数取得して各国の製薬会社を買収して多国籍ビックファーマとなり世界の市場を独占していく構造がある。

2020年の順位は以下のようになっている。
1位ロシュ(スイス)・ 2位ファイザー(アメリカ)・3位ノバルティス(イギリス)・4位メルク(アメリカ)・ 5位グラクソスミソクライン(イギリス)・6位 ジョンソン&ジョンソン 7位サノフィ(フランス)8位 アッヴィ(アメリカ)9位武田薬品工業・10位プリストールマイヤゼネカ(アメリカ)

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ビッグファーマ・巨大な収益至上主義のブラック団体的側面

このように考えていくと、私たちが受ける医療の重大な要素である薬というものが、現在いかに危うい状況に置かれているかがよくわかる。

もちろん薬の開発には膨大なお金がかかるだろうし、また薬を開発している人々は善意で新薬の開発に真剣に取り組んでいると思うが、この薬というものが資本主義における消費財という意味合いを持った途端に、人々の弱みに付け込む恐ろしい武器に変わってしまう。

ビッグファーマは巨大な収益を上げるために、多くの人が必要としている薬をあらゆる手段を使い、できるだけ高い値段で販売しようとする。そして多国籍企業として世界中をマーケットとしている一方で、薬はそれぞれの企業が属する国家の承認性になっている点。国家間の取引も複雑な駆け引きで成り立っている。

大勢の人に売れる薬が収益を上げる一方で、製薬企業はわずかな人しかかかっていない難病=希少疾患の薬=オーファンドラッグについては「命と引き換えのものだからいくらでも価格を上げていい」と考えている様子だ。

またある薬にもし別の効果があることがわかっても、そのメリットを分かち合う発想はなく、新たな薬剤名をつけて高額で売り出す。

もし開発した薬に副作用があるらしいとわかっても承認されれば問題が明るみに出るまでの間、知らぬ存ぜぬを決め込み、できるだけデータを隠蔽して販売を続ける。問題が発覚しても承認した公的機関のせいにして責任を逃れようとするだろう。

ある種の善意とか社会貢献というのは表向きの顔で、実はあらゆる手立てを使ってお金を儲ける方法を虎視眈々と狙っている。複雑なのは製薬企業の開発した新薬の恩恵を受けて回復する人も確かにいる一方で、ひどい薬害に見舞われる人がいてその救済はほとんど無視されることが多い点だ。

製薬企業との関わりに慎重になるしか私には方法が見つからない

私はかつて小さな医療関係の編集プロダクションを経営していたが、やはりその収益の原資は製薬会社だったと思う。

また今は主に向精神薬の問題を取材しているが、医療も福祉も意識するとしないとにかかわらず製薬企業からのお金が関係しその事業が継続されている。私は向精神薬を全否定する立場にはないが、被害はかなり見ている。そして精神保健福祉業界全体が向精神薬の様々なリスクを認めたがらない構造にもしばしば直面している。そしてこれはすでに固定化している。

番組の中でデパケンに関する訴訟を担当したフランスの弁護士は、「製薬会社は巨大な手強い相手だが、エネルギーをかけて闘えば闘えない相手ではない」と話していたが、そもそも病気で苦しんでいる人自身が薬害の被害者の場合が多く、闘うことの難しさは想像を絶するものがある。

製薬会社には、本当に困っている人を損得抜きで助けるような企業に変貌してほしいが、本当にどうしたらそんなことができるのか私には全く思いつかない。

すごく消極的だが、「製薬企業とセットになった医療にできるだけ関わらないように、できるだけ逃げたほうがよい」と思う。ずいぶん長い間医療に興味を持って取材してきたけれど、最近の結論は、「医療からも福祉からも距離をおくこと」だと思わざるを得ない自分も悲しい。

今私にとって新型コロナのワクチンの怖さはひとしおである。

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