治療した医師と回復した患者が対等に治療プロセスを語る関係

月崎時央(ジャーナリスト)

増田さやか医師のインタビューに、たくさんの反響があり、また色々なご意見をいただき嬉しく思い、関連することを書いてみました。

増田医師の伴走のもとで、向精神薬を無事断薬した NAOさんのインタビューも是非お読みください。(写真は2019年に増田医師と当事者のNAOさんが公開診察室という講演会の席で対談したものです。)

増田医師のサポートのもと、ゆっくり時間をかけて断薬し、回復したNAOさん

医療取材の非対称性を見直すチャンスとなった出会い

私は長らくマスメディアなどで様々な分野の医療記事を書いてきました。 Q&A形式など一見双方向に見える記事はあっても実際に主治医とその患者さんが、セットで取材に応じ、時間経過も追い1つの治療について双方向から記事を書くチャンスはほとんどありませんでした。

そんな私が5年前に「減薬の取材を始めたい」と宣言した時点で出会ったのが増田医師でした。増田医師は主治医として回復を支援してきた患者さんを10人以上も紹介し、そのほとんどの取材にも立ち会ってくれました。

私は約1週間の取材を行いましたがお会いした患者さん全員が、私の前で取材時点のそれぞれの状況を隠すことなく見せてくれました。

増田医師と患者さんは日常の本当に普通の会話で「うまくいったこと」も「難しかった経験」も、一緒に振り返りながら話す様子を見せてくれたのです。あまりにもフランクで普通の会話で話す医師と患者の会話を見ることは、記者である私にとって大変衝撃でもあり、また素晴らしい体験でした。

お会いした患者さん全員が「増田先生に巡り会えてよかった。助けてもらった」と異口同音に私に伝えてくれたのです。

一般に記者はウラの取れていない記事を書いてはいけないと教育されています。だから医療や健康関係の記事も、本当はお医者さん側だけの話、患者さん側だけの話は、どちらも偏る可能性があり不十分なのですが・・

実はお医者さんの話のウラを取るには患者の証言が必要で、患者さんの話のウラを取るにはお医者さんの証言が必要です。でも私はなんとなく医療の取材は、お医者さんの話だけをきちんと聞いて書くことが多く、それが案外得意だったような気がしますが、それは大きな間違いだったと今は思うのです。

患者さんに必要なのは診察室で本気で治療する医師

減・断薬について取材していると、医師でも患者さんでも薬剤師さんでもいろんな立場や流派!の人に出会います。

精神科の医師にも色々な人がいます。向精神薬に関する考え方や治療方針、また減薬に関してもみなさん微妙に思考が違ったりします。

最初の頃は、私もどれが正解なのだろうと戸惑っていたのですが、今は大切なことは、たくさんある治療や回復のための選択肢や見通しをきちんと説明され、それを主体的に選べる状態かという点なのだろうと考えるようになりました。

「良い先生」というものについても色々な見方があります。有名論文誌に研究発表をしている、書籍が売れている、海外の有名なメソッドを輸入して紹介した、その医師の病院のHPに良さそうなことが書いてある、新聞でインタビューされているなど評価の基準もたくさんあります。

どの活動もそれぞれに大切なものですが、私は、その医師の一番身近にいる患者さんが、その医師を心から信頼できているかどうかほど大切なことはないと思います。

患者さんがこの医師の治療によリ回復したと証言できること

現在私が精神科医を取材する基準はたった一つ「診察室を訪れた一人の患者さんと向き合い、その人を少しずつでも確実に回復させているか」につきます。

それを見極めるためには医師の態度を見るだけではなく、患者さんの証言が必要です。

「この先生にこのように治療してもらって自分は回復できた」という話を患者さんがエビデンスとして語ってくれ、その話が医師側の話とかなりの部分で一致していれば誠実な治療が提供されていると判断して良いと思います。

そして記者である私がそのことに「なるほど」と共感、あるいは、「もっと詳しく双方の話を聞きたい」と思うことが記事を書くために必要な動機だと思うのです。

今後も取材を続けて一人でも信頼できる医師を”発掘”!(◎_◎;)できたらと願うばかりです。

『ゆっくり減薬のトリセツ』は増田さやか医師が監修を担当しています。
監修の言葉は以下です。
https://lamappa.jp/careandrug/torisetu/torisetsu-supervision-masuda/


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